093573 ランダム
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目指せ!シナリオライター

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マッチ工場

○ 大田区あたりの町工場地帯 
   シャッターが閉まっている数軒の町工場。
   機械の音が悲しくどこからか聞こえてくる。
   あたりを飛んでいる蝉だけが元気にはしゃいでいる。

○ 町田マッチ製造工場・外観 (夜)
   古びた看板が取れかけている。
   窓ガラスにもひびが入っている。

○ 同・中 (夜)
   机に置かれている融資打切りの銀行からの通知。
機械を止める町田徳治(60)。
   タオルを差し出す町田ミツ(60)。
   機械を掃除する徳治。
徳治「こんだけまだまだ動くのによ。親父たちに申し訳ねーよ。俺で終わりにしちゃよ」
ミツ「まだそんなこと言ってるんですか?浩二のことで分かったと思ってたのに」
   汗を拭き乱暴にタオルを投げ出す徳治。
徳治「あいつのことは、口に出すなと言ってるだろ」
   タオルを拾うミツを睨む徳治。
   ミツは、タオルで顔を隠すように出ていく。
徳治「俺は、マッチ辞めねーぞ」
   町田マッチと製造元に印刷された赤いマッチ箱を眺めている。

○ 新宿西口あたりのオフィス街
  信号待ちのサラリーマンの群れ。
  タバコにライターで火をつけようとする若いサラリーマン。
  隣で様子を伺う徳治。
  なかなか火がつかない。
  徳治は、マッチを差し出す。
  若いサラリーマンがマッチを受けとる。
若いサラリーマン「す、すいません」
  徳治は、誇らしげになる。
徳治N「マッチもまだまだ捨てたもんじゃないぞい」
  若いサラリーマンがマッチの使い方に手間取っている。
徳治「なんじゃ?おぬし、マッチも使えんのか?」
若いサラリーマン「す、すいません」
  徳治はマッチをつけてやる。
徳治「最近の若いものときたら、文明の利器にばかり頼りやがって」
  若いサラリーマンは、逃げるように去っていく。
若いOL1「いまどき、理科の実験でさえ、使わないよね」
若いOL2「どっちが時代錯誤なのかしらね」
  徳治は、OLたちを睨む。
徳治N「マッチは、今までの日本になくては、ならなかったものだ。少しは感謝する気持ちをもてんのかの」
  OLたちは、逃げていく。

○ ABF銀行・下町支店・外観
  あなたの力に・地域の力にと看板にうたっている。

○ 同・中
  主婦や工場関係者らしき人でにぎわっている。

○ 同・応接室
  融資担当者と徳治が向かい合って座っている。
  徳治は、お茶をすする手を止める。
徳治「な、なんじゃと?貸すときは、ホイホイ貸しといて都合が悪くなったら手のひら返しやがって」
担当者「いまどき、マッチが売れるわけないでしょう。我々も商売なんですよ」
徳治「あなたの力にあの文句は、出鱈目か?外だけは、いいカッコしやがって」
担当者「もう、お歳なんですから、年金暮らしされてはいかがですか?」
  担当者は、何か書類を取り出している。
担当者「老後のことならご相談のりますよ」
徳治「ふざけるな」
  徳治は、担当者にお茶を投げかける。

○ 下町ファイナンス・外観 (夜)
雑居ビルの三階に社名の看板がある。
曇りガラスで中がよくわからない。

○ 同・中
  数人の社員らしき者がタバコふかしたり、ケータイをいじっている。
  山本幸造(60)が女性事務員と話をしている。
山本「そうか、そうか。わかってくれるか。その辺の銀行なんかより頼りになるな」
事務員「鉛筆は、今でも必要ですわ。私もまた使いたくなりました」
  山本は、鞄から鉛筆を一ダース取り出す。
山本「ほら、使え。これでよかったら。じゃんじゃん持ってきてやる」
事務員「ありがとうございます」
一人の男が、タバコをマッチでつけているのに気付く。
山本「あの人、マッチを使っているんだ」
事務員「なぜか、マッチなんですよね。社長、マッチのこと驚かれてますよ」
社長「下町には、こういうもの作ってるところもありますよね。やはり、ここで商売していくには、地域のことよくしらないといけませんからね」
山本「あなたたちには、感動した。これからもよろしくおねがいします」
  事務員と社長は、顔を見合わせて笑う。
社長「こちらこそ、お願いします」
事務員「では、ご融資させていただきますので判子をおねがいします」
山本「今度、親友をつれてきていいですか?同じ町工場仲間なんだけど、お金に困ってるみたいなんで」
事務員「いいですよ。どんなの作られてるんですか?」
  電話がなる。
男性社員「社長、電話ですよ」
  社長が電話を取る。
山本「マッチ工場なんだ」
事務員「社長を中心に私たちが応援しますよ」
山本「ありがとう」
山本は、店を出て行く。

○ 徳治の家 (夜)
 徳治は、酒を飲んでいる。
 ミツは、テーブルを拭いている。
ミツ「もう、それくらいにしてくださいな」
徳治「飲まずにいられるか。マッチを馬鹿にされて黙ってられるか」
ミツ「体壊したらまずいですよ」
徳治「お前も俺の妻だったら悔しくないのか?」
ミツ「じゃなかったら一緒にいませんよ」
 ミツは、立ち上がり台所へ向かう。

○ 町田マッチ製造工場 (朝)
徳治がシャッターを開けると鳩が飛び出してくる。

○ 同・中
  徳治とミツが入っていく。
  あたりに糞が散らばっている。
徳治「どいつもこいつも俺を馬鹿にしおって」
  ミツは、もくもくと床を拭き始める。
徳治「母さんは、俺のこと応援してくれるのか?」
ミツ「辞めろと言っても辞めないでしょ?」
  ミツは、汗を拭く。
ミツ「お父さんもさっさとしなさいな」
  徳治も床を拭き始める。

○ 徳治の家 (夜)
  山本と酒を飲み交わす徳治。
  ミツは、つまみを運んでくる。
山本「奥さん、席はずしてもらえますか?」
  ミツは、台所へ行く。
山本「トクさん、いい話があるんだ」
徳治「また、女のはなしか。わかいね」
山本「融資の話なんだ」
  ミツの足が止まる。
徳治「本当か?」

○ 徳治の家・玄関 (朝)
二つの靴が並んでいる。
徳治「今日でなんとかなりそうだ。赤飯たいてろや」
ミツ「期待しないで待ってますよ」
   ミツは、心臓がくるしくなっている。

○ 山本鉛筆工場 (中)
  中から、ガラスや機械の壊れる音が聞こえる。
  町田浩二(35)が取り立てをしている。
浩二「金返せよ。それかこの土地売れよ」
山本「あのときの社長か。あんとき言ってたの嘘か」
浩二「そんなに甘い話あるわけないだろう?鉛筆なんか誰が使うんだよ」
山本「こんな人間にどうしたらなれる?親の顔がみたい」
浩二「うるせーよ。二度というなよ。お前は金帰せばいいんだよ」

○ 下町ファイナンス
  徳治は、女性事務員と話している。
  浩二が帰ってくる。
徳治「こ、浩二?」
浩二「何してんだ?こんなとこで」
徳治「工場がつぶれそうなんだ」
浩二「親父に貸せるわねーだろ。こんな金」
徳治「この条件なら返せる、親の顔を立てて貸してくれ」
浩二「そんな甘い話なんかあるわけねーだろ」
徳治「もしかして、ヤミ金か?」
  浩二は、黙ってしまう。
  徳治は、浩二の頬をひっぱたく。

○ 下町信用金庫・ロビー
徳治は、頭を下げている。
浩二は、通りかかり徳治の背中が小さく見える。
浩二「昔は、よくしかられて、背中も大きかったのに」
  徳治は、よろけながら歩いている。心臓を押さえながら。

○ 下町ファイナンス・事務所
 浩二は、いくらかお金を持ち出している。
事務員「どうしたんですか?」
浩二「いい儲け話があるんだ。しばらく留守にする」
事務員「お土産待ってますよ」

○ 徳治の家
  ミツは、浩二の姿に驚いている。
浩二「親父は?」
ミツ「それが、帰ってきてないんだ。警察に電話しようとしてたんだけど」
浩二「その前に探そう。肝臓悪いんだろう?」
  浩二は家を飛び出していく。

○ 千葉あたりの海
  徳治は、浜辺に降りていく。
  波が少々高い。
徳治「おれもマッチがだめならそろそろ終わりかな」
  徳治は、海へ向かい歩いていく。
未来「ダメー。死んじゃダメー」
  町田未来(12)は、徳治の腰にしがみついている。
  未来のポケットからマッチ棒が落ちるのが見える。
徳治「マッチが好きか?」
未来「お父さんが唯一くれたものなの。だから、これしかお父さんの匂いしないいんだ」
  未来が線香花火にマッチで火をつける。
  未来は、楽しそうに小さな火の玉を見つめている。
徳治「お母さんは?」
未来「去年死んじゃった」
徳治「おかあさんが、お父さん連れてきてくれるよ」
未来「線香もあげてないし、むりだよ」
徳治「お父さんは、どこにいるの?おじさんにも線香花火くれるかい?」
未来「知らない」
   未来は、線香花火に火をつけようと、マッチ箱を落としてしまう。
   赤いマッチ箱で町田マッチと製造元にかかれている。
   未来は、泣き出している。
   マッチ箱を拾う徳治。
徳治「おじいちゃんが、同じマッチ作ってやる。お母さんにも線香上げよう」
未来「そんなこといっぺんにできるの?」
徳治「できるさ、未来ちゃんが笑ってくれればな」
   二人寄り添ってしゃがみこむ。
   二人の目を閉じ、微笑む二人の笑顔を朝日が照らしていく。、    






  




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